ブッキングの合間に

セッションにわかりやすいラベルを付け、完全にバックアップしていても、モニタリング環境の状態が曖昧なままでは困る。次のエンジニアが聞き慣れない低音の持ち上がりに気づけば、誰かがサブウーファーのレベルを変えた可能性を確認する前に、EQに手を伸ばすかもしれない。一時的な再生設定の変更が、不要なミックス修正につながることもある。

MusicTechの10月8日の記事によると、新たに発表されたADAM Audio Sub8 PROとSub10 PROは、ネットワークベースのEthernet管理システムであるADAM Controlを通じて管理できる。DJ Magもこの発表を取り上げている。

これにより、スタジオでおなじみの作業に新たな意味が加わる。ネットワーク管理を導入するなら、モニタリング環境の記録対象も増える。共有スタジオでは、引き継ぎ時に既知の初期状態と、次の担当者がそれを確認できる手段が必要だ。セッションファイルだけでは、重要な設定が記録されていないこともある。

2つの経路を図にする

まず、音声の経路と制御の経路を分けて考えよう。Ethernetベースの管理とは、機器の管理に使う接続を指す。この機能の発表だけでは、Ethernet経由の音声伝送への対応、特定のオーディオネットワークプロトコルへの対応、自動キャリブレーションの有無はわからない。

図を1枚用意し、インターフェースまたはモニターコントローラーから実際のスピーカー接続まで、再生信号の経路をたどる。もう1枚には、制御に使うデバイスと、メーカーが指定するネットワーク機器を記す。機器の一部は共通でもかまわない。各接続の役割を分けて記載すれば、トラブル対応時にそれぞれの接続が何を担っているか把握しやすい。

設定によっては、ノートパソコンをゲストネットワークに接続すると、スタジオのネットワーク上にある機器にアクセスできなくなることがある。音声信号が届かない場合とは、別のトラブルとして切り分けたい。そうしないと、制御用コンピューターが単に接続先を見誤っているだけなのに、エンジニアが音声のルーティングを変更して時間を無駄にしかねない。

スタジオのコンピューターを変更する前に、対応するオペレーティングシステムと接続要件を確認しましょう。2枚の図は部屋のセットアップメモと一緒に保管し、訪問したエンジニアがオーナーのアカウントパスワードなしで見つけられるようにしておきます。

部屋の状態を記録する

基準設定は、部屋とリスニングポジションに紐づくものです。セッションファイルには外部モニタリングの設定が記録されない場合があるため、部屋のセットアップメモと一緒に別途記録を残しましょう。

実際にシステムで利用できる設定項目を記録します。

  • 通常のモニターコントローラーの位置、または校正済みの基準リスニングレベル。
  • 調整可能な場合は、サブウーファーのレベル、クロスオーバー設定、メインスピーカーのフィルタリング。
  • 設定できる場合は、極性、位相、ディレイ。
  • スピーカー、サブウーファー、リスニングポジションの配置。
  • コントロールソフトウェアとファームウェアのバージョン、および基準設定を確認した日付。

物理的なコントロールは写真に撮り、必要に応じて剥がせるテープで位置を示します。ソフトウェアにプリセット機能がある場合は、リスニングポジションと確認日がわかる名前で、合意した基準設定を保存しましょう。コントロール用コンピューターにアクセスできない人が必要とすることもあるため、書面での記録も残しておきます。

一時的な変更を記録する欄も設けておきましょう。制作中に低域を少し強めたいエンジニアが、次の予約者を困惑させることなく調整できるようにします。変更内容を記録し、引き継ぎ前に合意した設定へ戻してください。変更をそのまま残す必要がある場合は、グループチャットに埋もれたメッセージに頼らず、部屋のメモにはっきりと記載します。

クロスオーバー領域を確認する

基準状態を確認して初めて、記録が役立ちます。クロスオーバー周辺の帯域では、サブウーファーとメインスピーカーが同じ周波数帯を再生します。両者の相対的な音量とタイミングがリスニング位置での合成音に影響し、さらに部屋の特性も加わります。

低域の内容が異なる、聴き慣れたリファレンストラックを、一定の再生音量で使います。適切な測定機器がある場合は、実際のリスニング位置で合成された特性を確認します。リファレンスファイルをすぐ使える状態にして、コントローラーの設定値を記録しておけば、次回も同じ素材を同等の条件で確認できます。

バイパス機能がある場合は、比較に使う前に、バイパスによって何が変わるのかを正確に確認します。サブウーファーをミュートするだけでなく、メインスピーカーのフィルタリングも変更することがあります。両方が変わる比較では、その点を踏まえて結果を解釈する必要があります。

リスニング時のメモとあわせて、信号経路の状態も記録します。画面上の数値がすべて変わっていなくても、スピーカーや椅子を動かした場合は、基準状態を再確認しましょう。

接続が失われた場合に備える

ネットワーク経由で管理する機器を日常的に使い始める前に、制御接続が切れたときに何が起きるかを確認します。設定のうちどれが機器本体に保存されるのか、電源を入れ直した後に何が復元されるのか、必要な調整を本体側で行えるのかを、マニュアルやサポート窓口で確認してください。

こうした点は、ネットワーク接続型のモニタリングシステム全般で確認が必要です。設計によっては、コンピューターが機器を検出できない問題と、機器への音声入力が途切れる問題は、それぞれ別の障害です。同じ障害だと決めつけると、不要なゲイン変更や、何の解決にもならないケーブル交換に技術者を向かわせることになりかねません。

セットアップ中に、再生をミュートし、セッションが待機していない状態で、メーカーが案内する接続手順と再起動手順を確認します。通常のネットワークに戻したら、再び音を聴く前に、システムが記録済みの基準状態で動作していることを確かめます。ほかの人でも実行できるよう、復旧手順を簡潔に書き残しておきましょう。

可能であれば、予約済みの作業時間を避けてファームウェアや制御ソフトウェアを更新しましょう。更新後は部屋の状態を再確認し、新しいバージョン番号をログに記録します。訪問したエンジニアが、前日の状態を再現しなくてもシステムの変更時期を確認できるようにしておきましょう。

次の作業に備えて部屋を整える

操作しにくい場所にコントロールがある場合や、複数の人が一貫した設定を必要とする場合、ネットワーク経由での制御には明確な実用性があります。その価値は、どのパラメーターを操作できるか、また現在の状態をどれほど明確に確認できるかによって決まります。固定された一人用の作業環境なら、必要に応じて物理コントロールに手を伸ばすだけで十分な場合もあります。

接続機器は、音響性能だけでなく、日々のこうした手間も踏まえて評価しましょう。所有者のノートPCを借りずに、訪問したエンジニアがセットアップを確認する方法を把握しておきます。実際に部屋を使う人が復旧手順を確認できるかどうかもチェックしましょう。スタッフ常駐の施設に適した機能でも、一人用のデスクではほとんど役に立たないことがあります。

引き継ぎ時には合意した基準状態に戻し、確認日をモニターコントローラーのそばに記しておきましょう。別の演奏者の場所を空けるためにサブウーファーを移動した、といった例外も記録します。次のエンジニアは、その記録と部屋の状態を照らし合わせられるため、十分に使えるミックスの低音をむやみに削らずに済みます。