削除申請の列

Sony Musicは、AIによるディープフェイク音源を26万件以上削除するよう、デジタルプラットフォームに要請したと発表している。Music Business Worldwideの10月5日付の記事では、Harry Styles、Adele、Michael Jacksonらのアーティストになりすました音源が挙げられている。Billboardの10月6日付記事も、同社が公表した同じ件数を伝えている。

この数字が示すのは、Sonyが異議を申し立てたコンテンツの数だ。同社が削除を確認した件数とは別の指標である。この数字だけでは、実際に何曲が削除されたのか、手続きにどれほど時間がかかったのか、その後リスナーが何に接したのかは分からない。

問題となっているのがアーティストのアイデンティティなら、こうした区別は重要だ。プラットフォームの審査が終わる前に、見慣れたアーティスト名で音源を保存する人もいるだろう。その後の判断で公開状況が変わっても、リスナーに変更の理由が説明されるとは限らない。

有意義な続報では、問題となった録音がこの手続きをたどり、リスナーが目にできるクレジットの訂正や削除通知に至るまでを追う必要がある。

声にはクレジットが伴う

スタジオの作業机では、声は素材だ。オートメーションのレーンを使えば、ブレスをバッキングトラックの下に潜ませ、最後の言葉をディレイの中に漂わせることもできる。一方、リリースページでは、その声に帰属表示も伴う。説得力のある模倣音声をよく知られたアーティスト名と組み合わせれば、誰が歌ったのかという主張をリスナーに示すことになる。

「AI音楽」という大まかな呼び方では、この議論を捉えきれない。演奏者が自身の声を合成したバージョンの使用を許可することもある。プロデューサーが生成AIツールで音色を作り、その貢献を明示することもある。こうした仮定上の使い方と、参加していない人物の演奏として公開された音源とでは、問われる問題が異なる。

好みだけでは、誰の作品かという問題に決着はつかない。合成されたパフォーマンスを楽しみながら、正確なクレジットも求めることはできる。再投稿された音源に、元の制作者が付けていない誤解を招くアーティスト名が添えられている場合もある。

そのため、慎重に検証する際は音源だけでなく、アーティスト欄やリリースの説明も確認する必要がある。掲載時の情報によって、聴くだけでは判断できない主張が加わることもある。

リンクが消えたとき

歌手になりすました架空の投稿を考えてみよう。サービスが審査後に削除しても、リスナーがすでに別の場所に音源を保存し、サプライズリリースとして共有しているかもしれない。最初のサービスは対応した。それでも、保存された音源には誤った結び付きが残りうる。

こうなると、プラットフォームにはもう一つの役割が生じる。今も表示を管理できる場所では、訂正の内容を説明することだ。元のリンクに明確なステータスを表示すれば、保存したアイテムが消えた理由を理解する助けになる。アーティストのクレジットを訂正した場合は、先の印象を覆せるよう、その変更が十分に目に留まる形で残るべきだ。

ここではバランスが重要だ。訂正によって、欺瞞的な投稿を新たな宣伝イベントにしてはならない。短く事実に即した告知なら、問題の音源を再生せずに変更点を示せる。

プラットフォームの対応では、保存されたリンクも考慮に入れる価値がある。対応報告では、サービスが誤解を招くクレジットを表示していた場所にまで訂正が届いたかを示せる。

対応結果を記録に残す

有用な透明性レポートなら、企業側の申し立てとプラットフォーム側の判断を分けたうえで、一定期間に何が起きたかを示すべきです。数字を読み解きやすくするには、次の4項目が必要です。

  • 集計単位。 合計が個別の録音を数えたものなのか、アップロード先ごとに数えたものなのかを明記します。同じ録音が複数のサービスに掲載されれば、対応件数も複数になることがあります。どちらの単位で示されているかが分かる必要があります。
  • 判断状況。 審査中の事案、削除された事案、審査後に申し立てが却下された事案を分けます。判断が覆った場合は、復元されたアップロードも含めます。
  • 解決までの時間。 通常の対応時間と、滞留が最も長い段階を示します。平均だけでは、長期間未解決の事案が隠れてしまうことがあります。
  • 再掲載。 再アップロードをどう数えるかを説明し、新たな録音と、すでに審査された素材の別コピーを区別します。

これは公開報告のために提案する基準です。簡単な内訳だけでも、寄せられた申し立てと完了した対応を比較しやすくなります。定義を統一すれば、報告を重ねることにも意味が生まれ、未解決の案件が増えているかどうかも把握できます。

審査には、誤りを正す余地も必要です。提出された申し立てに誤りが含まれることもあります。許可を得て合成音声を使うアーティストが、誤ったなりすまし認定に異議を申し立て、影響を受けたリリースの復元を求められる仕組みが必要です。

共有する前に確認を

リスナーにとって、まず確認したいのはリリースの出所です。アーティストの公式サイトや既存のアカウントに、同じタイトルやリンクがあるかを探しましょう。トラックのサムネイルだけでは、誰の作品かは判断できません。確認できなければ、特に知名度の低いカタログ作品をうたうアップロードでは、帰属先は不確かなままです。

次に、実際に確認できる情報を照らし合わせます。アーティストのプロフィールが、公式チャンネルからリンクされているものと一致するかを確かめましょう。クレジットや説明文に、演奏者について明確な主張があるかも確認します。リリース情報に食い違いがあれば、具体的な報告材料になります。

音声の判断には慎重さが必要です。強いボーカル加工によって本物の演奏が聞き慣れない音になることもあれば、圧縮された再投稿では評価が難しくなることもあります。息遣いや子音に違和感があるだけでは、確信を持って非難する根拠にはなりません。

なりすましが疑われる場合は、URLを保存し、該当するサービスの報告窓口から連絡してください。見つけた帰属表示の食い違いを説明しましょう。問題の音声を全面的に再投稿して非難すると、そのコンテンツに新たな視聴者を呼び込むおそれがあります。

証拠が十分でない場合は、帰属先を未確認のままにしておきましょう。アーティストの作品を紹介したいなら、本人が運営する公式チャンネルからリリースへのリンクを共有してください。

次の一手

報告基準が同等であれば、報告件数が多くても、迅速かつ正確に判断できている場合があります。同じ件数でも、未解決の案件が長い列をなしている可能性もあります。どちらも異議が申し立てられたコンテンツの集計値とは両立します。対応結果のデータがあれば、見出しの数字だけに業務全体を説明させずに、両者を見分けられるでしょう。

スタジオでいえば、納品前にバウンスしたファイルを確認する作業にあたります。レンダリングが完了していても、バージョン名と音声の両方を確かめる必要があります。プラットフォームも、異議が申し立てられたリリースについて、実施した対応とアーティストの帰属表示がどうなっているかを確認することで、この検証の習慣を取り入れられます。

Sonyが報告した数字は、対応業務の規模を可視化しています。次に役立つのは、その業務量を、人々が今も目にする可能性のあるコンテンツと結びつける数字でしょう。昨日保存したリンクを再び開いたとき、リスナーが明確な状況を確認でき、アーティストの誤認があった場合には、本人の公式ページへたどり着けるようにすべきです。