ダブルを動かす前に
MusicTechが9月28日に公開したVocAlign 7のアップデート概要では、マルチトラックのワークフローと、クリップごとのタイミングおよびピッチ編集が紹介されています。ボーカルを重ねたトラック群を扱うときは、ガイドとなる演奏の選択が重要です。複数のトラックをまとめて編集する場合も、バッキングの各パートにはそれぞれ役割があります。
処理を始める前に、サビを思い浮かべてみましょう。リードは食い気味に入る一方、ダブルは拍頭にぴたりと合い、高音のハーモニーは次のコードまで伸びています。それぞれの演奏は単独なら成立するかもしれません。しかし重ねると、プロデューサーはフレーズの複数の解釈を前にすることになります。重ねたトラックすべてに同じタイミングの理想を適用すれば、ドラムのヒット位置を動かすのと同じくらい、アレンジが変わることがあります。
どのエディターで音声を処理する場合でも、有効なアラインメント計画は、こうした音楽的な役割を起点にします。アラインメントの操作に入る前に、各ボーカルトラックの役割を記しておきましょう。
ガイドは慎重に選ぶ
ガイドとは、アラインメント処理でタイミングの基準として使う演奏のことです。可能であれば、承認済みのリードのコンプを選びましょう。そうでないと、後から1音節を変更した際に、複数のバッキングトラックがすでに取り下げた判断に沿ったままになることがあります。
次に、リズムセクションに合わせてガイドを聴き、特に食い気味の入りやフレーズの終わりを確認します。少し遅れた入りが、スネアに対して心地よいタメを生むこともあります。リードを補強するのか、応答するのかによって、バッキングパートとその入りの関係は変わります。
各レイヤーの役割を決めましょう。センターに置くダブルなら、1人の声に厚みを加えるため、子音を近づける必要があるかもしれません。左右に広げたハーモニーなら、母音の部分にはより独立性を残しつつ、語尾をそろえるのがよいでしょう。意図的にばらつかせたグループパートなら、密集した響きも表現の一部です。
独立したバックボーカルのブロックでは、そのブロック全体に一貫性を持たせられる基準パートを選びましょう。特にセクションごとに基準が変わる場合は、トラックノートに記録しておきます。「コーラスのハーモニーは下のハーモニーに合わせ、最後の語はリードに合わせる」と書けば、次の編集担当者にも役立ちます。
子音の合間に耳を澄ます
単語を一連の音の出来事として捉えると、アラインメントの判断がしやすくなります。まず、子音などによる発音の開始があり、音程を担う母音が続き、最後に音が終わります。それぞれに異なる注意が必要です。
わずかにずれた子音が重なると、歌詞が聞き取りにくくなることがあります。子音をそろえると、明瞭さが増す場合があります。その後に続く母音には、より大きなばらつきがあってもかまいません。複数人で歌っているような印象を狙うバッキングの重ね録りでは、特にそうです。単語全体を一律に詰めると、こうした違いが失われることがあります。
はっきりしたアタックと伸ばす母音を含む短いフレーズで試してみましょう。実際に気になる音の箇所を整えてから、フレーズ全体を聴き直します。修正した発音の開始だけでなく、その先まで聴くことも大切です。出だしが整うと、以前は声の広がりに紛れていた母音の短さや、不自然な語尾が目立つことがあります。
ブレスについても個別に判断しましょう。リードのリズムの一部として機能するものもあれば、複数のトラックで一斉に入ると、せわしなく感じられるものもあります。クリップゲインや選択的な編集を使えば、すべてのブレスを同時にそろえずに、そのせわしなさを抑えられる場合があります。判断する間は、未編集のコピーも残しておきましょう。
ピッチとタイミングを分けて考える
クリップ単位のタイミングとピッチの編集は、MusicTechによるアップデートの概要にも紹介されています。セッションでは、ツール上ですぐにどちらも操作できる場合でも、それぞれ別のパスで聴いて判断するとよいでしょう。
ハーモニーは入るタイミングがぴったりでも、コードとぶつかることがある。音程がよく合ったパートでも、音節の位置がずれていると浮いて聞こえることがある。タイミングと音程を同時に変えると、どの編集が効果をもたらし、どの編集が魅力的な細部を損なったのか判断しにくくなる。
タイミングを調整したら、中間バージョンを保存する。そのうえで、アレンジに照らして音程を確認し、どこを補正するか決める前に、音の滑らかな移行やビブラートも聴いておこう。バッキングパートが目立ちすぎる場合は、いったんミュートしてみる。問題は音域や音量にあるのかもしれず、さらに補正を重ねても、音楽的な問題はそのまま残る可能性がある。
エッジの効いた均一なサウンドも、もちろん選択肢のひとつだ。短く切った、ほとんどシンセのような音節でフックを作るなら、あえて硬くそろえたバージョンを試し、エフェクト用としてラベルを付けておこう。アレンジを組み立てている間は、別トラックに分けて明確に識別できるようにしておく。
コーラスの中でボーカルの重なりを判断する
ボーカルを重ねた部分を単独で聴くと、語尾の崩れや編集時のクリック音を見つけやすい。ただし、曲の中でどう響くかは別途確認が必要だ。ギターやシンバル、リバーブによって、リスナーに届く細部は変わる。
未編集と編集済みのバージョンを、同じエフェクトチェーンに通し、聴感上の音量をそろえて比較する。音量差があると、タイミングの判断がぶれやすい。すぐに聴き比べられるクリーンな比較用コピーを用意しておけば、取り消し操作を繰り返したり、トラックを半端にミュートしたりして、記憶頼みの試聴にならずに済む。
編集したフレーズの少し前から始まり、その後まで続く範囲を使う。そうすれば、フレーズに入る前の息づかいと、抜けていくときのつながりを保てる。補正した音節だけを何度もループすると、コーラス全体の勢いより、その部分の整い具合を重視しすぎてしまうことがある。
まず歌詞が聞き取れるかを確認し、次にリードボーカルとバッキングボーカルの関係に耳を傾ける。リードを補強するはずのダブルが別の歌い手のように聞こえ始めたら、子音と音量を確認しよう。グループ全体の密集した勢いが失われていたら、該当する言葉の周辺に広がりを少し戻す。
歌い手が立ち会えるなら、短く再生して確認すると、判断に迷う編集を解決しやすくなります。特定のフレーズについて尋ねてみましょう。バックのパートは遅れて入るそのタイミングに合わせるべきか、それとも、より安定した位置から支えるべきか。
あとから開き直せるセッションを残す
元の演奏、採用した編集、再生すべきトラックがわかる明確な印を残しましょう。書き出した別テイクにはラベルを付け、有効なトラック群に誤って加わらないようにします。このミスがあると、慎重に比較しても意味がなくなりかねません。
引き継ぎの際は、基準にしたテイクと意図的に残した例外を記しておきましょう。たとえば、最後のハーモニーの語尾は長く残す、最後のグループシャウトはあえてそろえない、といった内容です。波形だけを見る次の編集者は、こうした違いにも手を入れる必要があると考えても不思議ではありません。
次のタイミング調整では、目的を絞りましょう。たとえば、リードの子音にダブルの子音を寄せつつ、応答するハーモニーはビートの後ろに残す、といった具合です。そのバージョンは、手を加えていないテイクの隣に、指示を添えて保存します。
執筆 エイヴリー・ノックス
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